がん患者では、がんの進行もしくはその治療の過程で、様々な機能障害が生じ、その結果、日常生活動作ADLの制限やQOLの低下をきたしてしまいます。
なかでも食道癌の手術は侵襲が大きく、多様な後遺症や合併症を生じる可能性があるため、がんリハビリテーションの重要な領域です。
最近では術後合併症が生じてからリハビリ開始ではなく、術前そして術後早期からの入院中のリハビリの実施する周術期リハビリがだいぶ浸透してきました。
しかし、退院後のサポート体制はいまだ不十分であり、がん患者のQOLを損なう大きな問題となっています。
診療報酬上、がん患者リハビリテーション料の算定要件が入院に限定され、外来で算定できないことが要因です。
実際、われわれの胸部食道癌の術後患者を対象とした先行研究では、左図のように、6か月後にもSWT(shuttle walking test)距離で示される体力・肺機能・栄養状態は十分に回復していないことが示されました。さらには、右図のとおり、胸部食道癌の術後患者を対象に経時的に骨格筋の変化を評価した研究では、術後6か月でも、活動量が低い患者・高い患者ともに、筋量の減少が持続していることが示されています。
また、食道癌術後の骨格筋量の減少は生命予後に影響する独立した因子であるという報告も増えています。
従って、すべての患者において、もとの健常な状態への回復を目指し、運動療法を中心としたリハビリテーション治療が必要といえます。
ここで本年4月にannals of Surgical Oncologyに公開された高齢食道癌術後の筋量の減少の予後への影響に関する研究を紹介します。筆頭著者は、慶應リハ教室大学院博士課程在籍中で、国癌東リハビリ科PTとして勤務している原田さん、国癌東食道外科で分担研究者の藤田先生、研究班代表 辻 哲也 も共著になっています。
この研究成果の一部で、第59回日本癌治療学会学術集会 プレナリーセッション 最優秀演題講演を受賞しました。
対象は、国癌東で周術期リハビリテーションを受けた70歳以上の食道癌患者です。目的は、周術期リハビリテーションを受けた高齢食道癌患者における術後骨格筋量の変化が、予後に及ぼす影響を明らかとすることとしました。骨格筋量は、手術前2ヶ月以内と術後4ヶ月時点でのL3筋断面積とし、その減少率を評価しました。
このとき、減少率の大きい major loss 群 は、減少率の少ない minor loss 群 と比較し、3年全生存率は有意に低いことが示されました。
Major loss 群 は、既知の予後因子から独立して3年全生存期間に影響しており、骨格筋量はOSのサロゲートマーカーになりうる可能性が示唆されました。
骨格筋量は様々な要因に影響されるので、今後前方視研究によるさらなる検証が必要ですが、運動療法により骨格筋量を維持することの意義を示す研究と考えます。
がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂版では、がん種や治療目的で章立てされています。
消化器がんでは肺癌や大腸癌を対象として研究が多く、食道癌の周術期や外来リハビリの効果に関してはまだ十分に高いエビデンスが示されていません。
そこで、我々はAMED研究として食道癌術後に退院した患者を対象に、シングルアーム試験により、外来リハビリ介入の忍容性と安全性を評価しました。
手術前に一次登録、退院時に20%以上のSWT(shuttle walking test)距離の低下を認めた症例を二次登録、適格症例とし、外来リハビリを退院後から3か月間実施しました。
コロナ禍の逆風もありましたが、2021年5月末に予定登録数に到達しました。
結果、外来リハビリプログラムの完遂率は80%以上であり、高い認容性が示されました。また、SWT距離が低値のフレイル症例も半数程度含まれており、本プログラムは、体力低下やフレイル症例において実施可能であることが検証されました。